寿司は無限

アニメとかについて書きます。寿司は無限などと言っている割にせいぜい30皿が限度です

魔法戦争全話レビュー 第十話『消された境界』

第十話『消された境界』

脚本:ハラダサヤカ演出:佐藤雄三絵コンテ:小島正志

 

 学院は崩壊し、武は満身創痍で、くるみは月光の手に落ちた。絶望的な状況の中で、武たちの進むべき道のどちらだ。最初の見どころは六ちゃんvsヴァイオレット先生だ。なぜかヴァイオレット先生は六ちゃんや十の顔が気に入らないらしい。そして、六ちゃんはやはり先生の召喚獣に勝てない。ここで十の元カノ妃えなの登場だ。三人ががりで先生を退けて、武を担架で運ぶ。担架といってもここは魔法の世界。ただの担架ではなく武が魔法陣の上に乗っている。六ちゃんはえなのことが気に入らないらしく、彼女が十と一緒にいると露骨に嫌な顔する。武たちの身柄は一時的にえなが所属するコミュニティ、ビショップ・オブ・ザ・キャメロットが保護することとなった。キャメロットは女性のためのコミュニティだ。しかし、なぜか六ちゃんの服は用意できず、ナース姿での登場となる。えなによる嫌がらせではないだろうか

 

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 さて、戦争していないと言われてきた魔法戦争だったが、ここにきて史上最大の戦争に突入していく。ゴーストトレイラー本部、巨大な城塞にチームのメンバーたちの吶喊が響き渡る。和馬の号令の下、最初に動き出したのはワシズ様だった。彼に任された重要任務は、ギフトを作り上げた大魔法使い、ワイズマンの抹殺である。この任務は至極簡単に終わる。ワシズ様が「最初は俺か」と言った直後、ワイズマンは血まみれで倒れ伏していた。ボディガードも皆殺しになっており、ワシズ様の圧倒的な強さが伺える。ワイズマンの体から、今まで奪われてきた魔力が一気に放出されて、空には巨大なオーロラが光る。崩壊世界と現存世界を隔てる壁は消失し、現存世界で大規模な戦争が行われる。ビルの窓からぬーっと人がモブが抜けだしてきて、ピカピカ戦闘し始めるのには笑った。一般人が「空を人が飛んでる!うわー!」とか言って巻き込まれるのも面白い。これにより、戦争に巻き込まれた少年少女は次々に魔法使いとなり、トレイラー勝利の暁には魔法使いによる世界が完成しそうだ。

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 アニメでは、こんなに弱いじいさん一人殺したくらいで消えるシステムとはなんと脆弱だろうと視聴者は思ったであろう。確かに戦闘シーンもなく一瞬で殺される上に、ワシズ様は無傷でヘラヘラしているのだ。ただ原作ではもう少し仔細に描かれていて、ワイズマンは固有魔法である「相手の魔力奪う魔法」でワシズ様を苦しめるのだが、トレイラーも無策で彼を送り込んだわけではなかった。ワイズマンの妻を洗脳して、彼の魔法をキャンセルする指輪を奪っていたのだ。またワシズ様は生まれつき魔力量が多く、ほぼ無傷でワイズマンを倒すことができたのである。強敵に対してはしっかりと策を巡らせて勝つべくして勝つ、トレイラーの恐ろしさが伝わると思う。またワシズ様には弟がおり、彼はギフトで魔力を失い自殺したという過去が明らかになる。親友と弟……ワシズ様の大切なものはウィザードブレスによって大きく損なわれていたのだ。

 トレイラーの目的は魔法世界の既存勢力を滅ぼして、世界を一から構築し直す、すなわち革命である。そのような馬鹿げたことが通るわけがないと言うワイズマンに対して、ワシズ様は次のように返すのだ。

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「だろうな。だから戦争がなくらないんだ」

 魔法戦争は戦争の悲劇や繰り返される人間の愚かさを描いた大作という見方もできる。反戦という意味では、次の武の修行パートも見逃せない。陽子にキャメロットが託したのは、一時的に魔法を使えるようにするというご都合主義的アイテムだった。武になぜ戦うのか問う陽子。

武「俺には正直、この戦争に意義はよくわからない。どちらが正しいとか、それが俺に関係あるとはやっぱり思えないし……」

 武は徹底的に戦争の大義を理解しない。当然である。勝手に作られた戦争という大きな渦に巻き込まれてその生活を圧殺されているのだから。魔法戦争は反戦作品なので、戦争の大義というものを徹底的に否定している。武たちは自らのあずかり知らないところで始まった戦争に振り回されていく。武は身近な人達のためにこそ戦うとするが、その半径数メートルの世界を蹂躙するのが戦争なのだ、と魔法戦争は語るのである。過去の因縁を勝手に背負わされて、それでも、せめて自分の身の回りの人たちを守ろうと奮闘する姿はしみじみと涙をさそう。トレイラーにも、ウィザードブレスにも正義はなく、正義の戦争など存在してないという、スズキヒサシ先生のメッセージをひしひしと感じ取ることができるだろう。

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 ここで武のキャラソンが流れだす。これがひどく長い。ゲド戦記でテルーがテルーの唄を歌うシーンより長い。5分近くずっと武の歌を聞くことになる。ジャイアン・リサイタルだ。この歌と共に見せられる武の修行シーンが面白くて、目隠しをして竹刀でシバかれたり、ひたすら竹刀で人形を叩いたり、魔法とどういう関係があるのかイマイチ不明な訓練をさせられる。陽子いわく、武はまるで素人らしいが、十の特訓はまるで意味がなかったということになる

 くるみは武がトワイライトに体を貫かれて殺される夢を見ている間に、六ちゃんと武は急接近して、夕焼けをバックにほのぼのしている。次回、ついにくるみの救出作戦が始まる。魔法戦争のもう終わりに近い。リアルタイムで視聴している時、この物語の行き着く先を見届けるという決意を感じたものだった。