寿司は無限

アニメとかについて書きます。寿司は無限などと言っている割にせいぜい30皿が限度です

実話怪談

 久々の更新です。2月からライザップに通い始めたので、寿司は食べられません。そんなことよりも、最近は実話怪談を読むのにハマっておりまして、そのレビューを書こうと思います。

 

平山夢明『こめかみ草紙 串刺し』『こめかみ草紙 歪み』

 このシリーズは人間の狂気とも心霊ともつかぬ怪談話を集めた本。狂った生者の行動も、幽霊の祟なり呪いなりも、もちろん恐ろしい。しかし、狂人といっても私達と同じ人間で金槌で頭をめった打ちにしたり、ガソリンをぶっかけて焼いたりすれば死ぬ者でしかない。幽霊が人を呪うのには、その人なりの理由がある。生きた人間だって怨恨やら何やらで人を殺すのだから、幽霊だってそうだろう。

 自分は怖がりなので、そんな“わかりやすい”怪談でもびびりまくるのだが、好きなのには考えなおしても、結局アレがなんだったのかわからない……不可解で、そしてイルな手触りが残るものだ…………といっても本書にもわりと幽霊っぽい話は入っています。それはそれで味わいがあります。

 『串刺し』収録話では、切り傷から声が聞こえるというリスカ常習者で心に病を負われている女の子が自殺した母の傷から何らかの声を聞き、狂気に至る「傷口」がよかった。母親の傷から彼女は何を聞いたのか?何故狂ったのか?その“わからなさ”が味わいがある。第一話『雛と抽斗』では幼い日の話者による予言めいた落書き、突如落ちてきた「雛」と書かれ錆びた釘がぎっしりと詰まった箱……説明し難い不可解さもよい。

 また「李」は話者が少女時代に慕われていた「さより」という女の子の死にまつわる怪奇譚だが、歳の差百合っぽくてよかった。「(亡くなった)おばあちゃんみたいな感じがするから」といって懐いてきた旧家の娘。しかし、話者が高校にあがると以前のように遊ぶこともなくなっていたが……。「いままでありがとう」とだけ言って、ぽつぽつと歩み去る「さより」がなんとも哀しくも美しい味わいがある。

 『歪み』にも百合はある。「かくれんぼう」は話者が小学生の時、凛として寂しげ(凛として時雨並)な旧家の娘、さちと仲良くなり、彼女の家で体験した話だ。広い屋敷で隠れんぼをしたおり、“決して入ってはいけない”と約束した部屋に入ってしまう。開かずの間には、子供の背丈ほどの娘人形が飾られていたのだが……。不気味なオチに、別れ、後味は悪いが、話者が体験したことの意味を考えると、悲しさもある。アレは本当に話者と仲良くなれたことがうれしかったのではないか……と。

 変わったところでは「十五の春」という、女子中学生時代の話者に「ワキヤトキツレ」なる武者の霊が憑依する話が面白かった。女子中学生の体を借りたワキヤ某が、炊飯器の前に陣取って「飯がでるのを待っている」なとど言うわ、車に乗せられて「オゾし、オゾし」と呟くわ、完全にカルチャーギャップコメディだ。まあ刃牙道の武蔵も車の乗ってビビっていたし、そういうものなのだろう。ワキヤ某は律儀で誠実な人物らしく、娘の体から出て行った後、家族に福を授けてくれたっぽいのもよい(こんなふうに消費していると怪異の怒りを買いそうで怖い)。

 最終話、「砂人魚」は不気味ながらも美しく、日本昔ばなし的な叙情があり、うまい具合にしめてくれる。

 

黒木あるじ『無惨百物語 ておくれ』『無惨百物語 みちづれ』『怪談実話傑作選弔』
無惨百物語  ておくれ (角川ホラー文庫)

無惨百物語 ておくれ (角川ホラー文庫)

 
無惨百物語 みちづれ<無惨百物語> (角川ホラー文庫)

無惨百物語 みちづれ<無惨百物語> (角川ホラー文庫)

 
怪談実話傑作選 弔 (竹書房文庫)

怪談実話傑作選 弔 (竹書房文庫)

 

  怪奇秘宝で紹介されていて気になったので買ってみた「無惨百物語」が怖くて面白かったので傑作選も購入。最初に買った「ておくれ」の一番最初の怪談話、「息子の墓参り」でやられてしまった。話者の女性が婚約者の実家に行き、そこで墓参りの“儀式”を目にするのだが、そこに込められた憎悪の深さに何とも嫌な気分にさせられる。

 『ておくれ』の「あかるいおうち」ではこの手の怪談にありがちな“呪われた家モノ”に新鮮な視点に加えてくれた。人が立て続けに死ぬ、不幸になる、呪われた家。しかし、家に霊的なものが宿るとしたら、彼/彼女は本当に不幸を望むのだろうか。

 「スマホゲーム」では事故死した祖父が歩きスマホへの警鐘を鳴らすという一見教訓話っぽいが、その事故原因が車の運転手を驚かそうと路上で死体のふりをして本当に轢かれたというもので、その“警鐘”も単なるイタズラであろうという推測がつく。死んでもイタズラを続ける祖父の可笑しみがほっとさせてくれた。他にも「蕎麦屋の罪」という怪談は、脱サラ激不味蕎麦屋店主が化けタヌキにある酷いことをしてしまう。化けタヌキは大変気の毒というほかないが、民話的おかしさが笑いをさそう。『みちづれ』収録の「嘘吐き幽霊」もこの系譜だろう。試験勉強をさぼってオナニーをしている孫を叱りに祖父の霊が現れるが、なんと祖父は生前はつけていなかったカツラをかぶっていたのだ。孫が「なんでそんな見栄はるんだよ……」と言うと、すっと消えていったそうな。

 合間にこういうほっとする話をはさむと読みやすくなると感じた。怪談話は笑い話や感動話と接続しやすい。怪談は融通無碍、恐怖教訓笑いに悲哀、そして百合……あらゆるものを描き出す。とはいえ、本書の本領はやはり不気味で不可解で読後に嫌なものが残るものだろう。

 他にも『ておくれ』収録話では、「予言者たち」が出色の不気味さだ。ある女性添乗員が“不可解な十三人の客”の存在に気がつく。彼らの旅行先では天災や暴動など、何かしらのアクシデントが必ず発生するというのだが……。初めて読んだ時、彼らの住所に関する記述でぞっとしたのだが、今思うと、十三人の予言者たちに、てるみ倶楽部が手配・ユナイテッド航空で旅に出てもらって妖怪大戦争をしてほしくもある。

 「ピカソ」は顔の傷のせいでひどいイジメを受けている少女との百合モノでもある。単なる美談にならないのが生々しいが、それだけに霊が見せる表情が胸を打つものがあった。やっぱり怪談話は百合とも接続しやすいものだ。

 『みちづれ』収録では、「ぴあのさん」のラストの“さかさまの仏壇”が嫌な余韻を残す。「うえのへや」は続けざまに人死のでるアパートの話。件の部屋の最初の住人は突如として階下への引越しを申し出る。不動産屋は訝しみながらも、それを受け入れるのだが……。彼は一体何をしたのか?目的は?じっとりとした悪意を感じる恐怖譚だ。

 その次の話、「かわらぬ家族」。これが個人的には一番怖かった。隣家に半年おきに越してくる家族。出身や職業はバラバラなのに、年齢と家族構成と人柄はまるっきり同じ。すでに十二組の一家が“交代”している。奇妙に思った話者が探りを入れると……。この話に登場するのはもちろん幽霊ではないし、はっきり狂気に入り害をなすわけでもない。朗らかで地域の活動にも積極参加する普通の家族。しかし、読者を戦慄させるのである。

 『みちづれ』では「揚羽」が美しくも残酷で一筋縄ではいかない夫婦の関係を描き出していた。DVの末に愛人の寝床で死んだ夫。面倒を恐れた愛人は川辺に彼を遺棄する。夫の霊は揚羽蝶となって喪中の妻の元に訪れるのだが、そこで妻が取った行動が味わい深い。

 夫婦ものでは『弔』の「遺影」がよかった。夫の葬式で起きたある怪奇現象によって、妻は激高して遺影を粉々になるまで破壊することになるのだが、夫の生前にいっていた「あの人は優しいだけなの」という言葉も嘘ではなく、愛情もあったのだろう。

 この『怪談実話傑作選弔』、傑作選というだけあってどれも粒ぞろいなので、オススメである。

 祖父母の愛情の記録のスケッチブック、そこに描かれていたのは……「形見」

 縁結びの洞窟で、不気味な女との縁を結ばされる「御縁」

 半年に一度訪ねてくる“人ではない”女、家族の奇妙な行動が恐怖を誘う「墨女」

 神隠しの“その後”が描かれる「天狗」

 こっくりさんで使った十円で先生に結婚祝いを送ったことから始まる「十円」

 どれもこれも怖かったり不気味だったり、大変に楽しんだのだが、最終話の「邂逅」が一番後味が悪い。要はワナビの末路なんだけども、人間の人生で後味が悪くするのはやめちくり~と思った。もうここまで来たらJKローリングみたいに生活保護もらいながらワナビやってほしいよ。就職して金を稼ぐだけが人間じゃないし、無職で引きこもりのワナビだからって不幸になっていいなんて法はないんだから。

 

郷内心瞳『拝み屋郷内 花嫁の家』

  これは変わり種だった。東北地方で拝み屋を生業とする著者の実体験を書いたものなのだが、正直に言って小説だった。確かに面白くはあった。バラバラに見えた怪談が実はある旧家をめぐる因縁に繋がっていくのは伝奇的な面白さがあったし、“神殺し”の一族なんてバリバリ伝奇感があって好きではある。ただあまりにもお話になりすぎていて、さすがに実話とは考えにくい。これの元となる事件はあったにせよ、そうとう盛って美化して体裁整えてお出しされたものじゃないかと勘ぐってしまう。

 白石晃士監督作品『カルト』のNEOを弱くしょっぱくしたみたいな悪の霊能力者とカー・チェイスとか始まっちゃうし。あとヒロインがヒロインでございみたいな人物造形なのもよくない。

 まあ『残穢』みたいに文章モキュメンタリーとして楽しめばいいのかもしれないが……発生する事象が派手すぎる。では『コワすぎ』みたいに楽しめばと思えば、今度は地味でもっとホップ・ステップ・ジャンプが欲しい。終盤で「そんなこったろーと思った!」と言いたくなることが「実は……」みたいなテンションで述べられて、それで結局人が死んでるのもどうかと思う。

 そもそも体裁としてズルいものを感じてしまう。某レビューサイトで主人公・郷内さんの岡惚れがキモイみたいなことを言われていたが(さすがにそこまで言うのは酷いと思う)、確かにこれが創作なら私も同じことを言ったと思う。それに作中で「守秘義務が……」などというが、それをいうならこうして本を出版するのも……。

 しかしながら、こちらとしても他人様が必死に頑張った結果や現実の人間の生死にまつわる事柄について、とやかく言うのは本意ではない。実際に体験したことという体裁だとケチをつけづらいのだ。著者の悪口が言いたいわけではないのだから。

 ケチをつけてきたようだが、もちろん楽しかった。こういう旧家にまつわる伝奇モノをもっと読みたいなとも思ったし、怖いところは怖かった。上記の通り、バラバラの恐怖体験が“神殺し”の一族の因縁に収束するのもホットだった。そういえば第一ヒロインの千草を“神殺し”と呼んだ霊能者、郷内さんより強そうだな。第二ヒロインの名前が霞さんなんでずっと咲-Saki-の石戸霞を思い浮かべちゃったのもよくない(これは俺のせいだけど)。

 実話なら実話、伝奇なら伝奇の美があるのだ(『弔』巻末の平山夢明の解説から)。ちょっとどっちつかずな印象を受けてしまった。ただこれも従兄弟同士の百合なんで、そこはよかった。

 

吉田悠軌『恐怖実話 怪の足跡』
恐怖実話 怪の足跡 (竹書房文庫)

恐怖実話 怪の足跡 (竹書房文庫)

 

  白石晃士監督作品『シロメ』『戦慄怪奇ファイルコワすぎ!劇場版・序章【真説・四谷怪談 お岩の呪い】』にも登場する怪談師、吉田悠軌さんの実話怪談本。『シロメ』では憑依体質のくせに怪談師やってるみたいな風評があったが普通に怖かった。最初の「こけし」は不気味で因縁めいたイルさがあるし、「紙流し」から漂う物悲しさもよかった。出張先のホテルで起こる怪現象、「せんせえ」も何故話者がこれを目撃したのか?と考えると何やら居心地の悪い嫌な感じがする。

 面白かったのは「エカマイのマンション」だ。タイの都市、エカマイのマンションにまつわる怪奇話なのだが、クマントーンなる呪物信仰や魔性の目を誤魔化すための偽の葬儀など呪的好奇心を刺激されるし、実際に問題のマンションに行き、現状を伝えてくれるのもうれしい。そもそも吉田悠軌さんは怪奇秘宝の記事で怪奇現象は発生している地域について、古地図や伝承を掘り返して詳細に追求しており、大変興味深かった。こうした怪奇の検証は私も大好物で、本書は実話怪談という体裁なので仕方がないが、そのあたりが弱く感じたので、他の本も読んでみたいと思った。

 ちなみに吉田さんはどうも私の大学の先輩でもあるらしい。吉田さん本人の体験を描いた「大晦日」は現地を知っているだけに他とは別種の面白さだった。寿司屋でのバイト中、団地に住まう奇妙な老婆に鮪の寿司を届けるのだが、その部屋から大型の獣を思わせる臭気が漂っていたらしい。その後、お皿を回収しにいくと、まるで直接頭を突っ込んで貪ったように、刺し身だけが食い散らかされていたという。

 ちなみに吉田さんはそのあたりの怪奇に魅せられて近くに住んでいるらしい。もしかしたらすれ違っているのかもしれない。出会ったらサインがほしい。『シロメ』以来の付き合いとも言えるわけだし。

 

 さて実話怪談といえば、最近某有名私立大学教育学部助手のA君から自己責任系の話を聞いてしまった。今度このブログでも書こうかと思います。それしても彼から昔聞いた旅館での恐怖体験が嘘だったと聞いてショックだった。ずっと俺を騙して嘲っていたんだろうか。今度のが嘘だったら絶対許さんし、その自己責任系怪談に登場する廃墟に潜入してもらいます。