寿司は無限

アニメとかについて書きます。寿司は無限などと言っている割にせいぜい30皿が限度です

薄墨初美闇の客人説

 野獣先輩○○説風の新作です。薄墨初美といえば、小林立の漫画『咲-Saki-』の登場人物だ。咲-Saki-についての基本的な解説は必要ないだろう。永水女子三年でポジションは副将。明らかに子供な体格と過剰な露出で人気である。また忘れてはならないのが、彼女の能力“鬼門”だ。自身が北家の時、東と北を鳴くことで四喜和を呼びこむ。筆者は様々な検証の結果、この能力が妖怪ハンターシリーズの一作、「闇の客人」をモチーフにしていることを発見した。

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 薄墨初美が“能力”を発現させる時、巨大な鳥居のビジョンが立ち現れて、その向こう側の“異界”から何か禍々しいものが出現する。その禍々しい“何か”こそが彼女の異能の本質なのだろう。鬼門(東北)に導かれるように、裏鬼門(南西)が手配に出現する。

 「鳥居の向こうの異界から出現する禍々しい存在」……妖怪ハンター闇の客人をすでに読まれた方ならピンときたであろう。そのものずばり、『闇の客人』とは鳥居の向こうの異界とそこから現れる異形の神についての漫画なのだ!

 妖怪ハンターとは諸星大二郎の代表作の一つで、妖怪の実在を唱え学会を追放された異端の考古学者・稗田礼二郎が全国各地の異形の存在と壮絶な死闘を繰り広げる…………のではなく、異形の者達の解説や研究が主な内容でいわゆる活劇的なものとは距離を置いている。ジャンプ漫画でも『地獄先生ぬ~べ~』とはちょっと違うのだ。まあ考古学者なのだから当然といえるが……(ジョナサン・ジョースターは考古学者だったけど)。

 今回の『闇の客人』では、町おこしのために“大鳥村”なる寒村に古来から伝わっていたという“祭り”を復古させるにあたり、考古学者として監修を依頼された稗田が、その祭りの開催を見届けるというものだ。大鳥村というように、貧しい村には似つかわしくない異様に巨大な鳥居がかつてあり、それもまた再現されている。そして、その異界から邪ぶる神が顕現して、巫女役だった少女の首を引き裂く。

 大鳥村の本来の祭りは、東の彼方にあるという「常世」やニライカナイのような異界から、幸神を招き饗応する神事であった。神は異界から幸(豊穣)をもたらしてくれるのである。そして禍津神を招いてしまった時には、巫女を人身御供として捧げて神を下社に迎え入れ、村人はみな物忌して禍の過ぎ去るのを待つ、というが正式な仕方であった。しかし、下社の位置には新築のホテルに人が詰まっている。儀式をねじ曲げてしまったことが、祭りを、村を崩壊させていくのである。

 禍津神を異界に送り返すには、鬼の仮面をつけて“鬼踊り”なる舞いを舞わねばならない。旧時代の儀式を唯一知る半ば痴呆のような老人が物悲しい踊りで神を誘い、共に異界へと消えることで、この漫画は終わる。

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  鳥居は異界の門であることが一目瞭然だ。ただこれだけはいささかこじつけっぽい(夕立)。鳥居という存在が此岸と彼岸を分けている的なイメージはありふれていると言えないこともない。ここで注目したいのが、なにゆえに禍津神が来てしまったのか、という点だ。旧時代、村の大鳥居は幸に満ちた「常世」があるとされる東を向いていた。そして、新築にするにあたって、駅からの見栄えを考慮して、その向きを変えてしまった……。この画像を見れば、一発で理解してもらえるであろう。

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 完全に一致している。東北に向けて建造された鳥居は、村にとって最悪の禍を招いてしまったのだ。しかしながら、鳥居を正しく東方に向ければ、それで絶対に幸神がくるという保証はない。神霊の世界とは、そう簡単に人間の思い通りに動いてくれるものではないのだ。なぜ古文書に禍津神への対処法が事細かに記されているのか。それは異界から来るものを人間に選ぶことができないからだ。できるのはせいぜい少しでも成功率を上げて、祈ることしかできない。そして、失敗……すなわち禍津神を招いてしまった時のために、生贄を用意して……。

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(稗田先生の解説。門の方角や祝詞神意の前では人間のできることには限界があるのだ)

 幸神を招き饗応する神事、そして、禍津神がやってきた時のための生贄。何か思い出さないだろうか。そう、神代小蒔と石戸霞の関係である。神代小蒔は天孫降臨神話をモチーフにした“九面”という力を持つ。彼女の家系の正当血統は九柱の女神を憑依させて、その力を振るうことができ、インハイ2回戦でも片岡優希らを苦しめた。そして神のローテーションはある程度操作可能らしいが、イレギュラーも存在する。

 

「分家の中でもあなたが一番姫様に血が近い。だからこそ生きた天倪となるので す。姫が宿し使う女神は9人ではなく、ごくまれに恐ろしいものが降りてくる。それを代わりにおまえが宿し手なずけるのです」(咲-Saki-10巻186p)

 

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 霞が宿す禍々しい存在。異界から来るものを完全に人間が選ぶことは叶わない。天倪とは禍事を移しやるための形代の一種で、霞は生贄とはいわぬまでも、小蒔に代わり禍津神を背負うことを運命づけられている。妖怪ハンター『闇の客人』と『咲-Saki-』の永水女子周辺の話、これらは実は同じことを語っていたことがお分かりいただけただろうか。

 暗黒神話咲-Saki-説でも説明した通り、小林立先生は諸星大二郎作品にインスピレーションを受けている可能性が高い。優れた才能というのは、共鳴するものなのであろう。