魔法戦争全話レビュー 最終話『世界からの消失』
第十二話(最終話)『世界からの消失』
脚本:村上桃子演出:真野 玲絵コンテ:佐藤雄三作画監督:江畑諒真・高田晴仁・東島 久
一年前の今日、一つの伝説が生まれた。一年前の今日を境として、アニメシーンはガラリと音を立てて変わった。魔法戦争の完結によってである。
武vs月光の炎の最終対決、そして、魔法戦争の行方は……。さて、魔法戦争最終話には、他のアニメにはあまり見られない特徴がある。それは今まで繰り返されてきた、ぶつ切り演出の極地ともいうべきものだ。つまり、第十一話と最終話の間に、一話分抜けているのかのような隔たりがあるのだ。前回、トレイラー本部に潜入したが、その後どうなったかは直接的に描かれない。武のモノローグで五十島の手がかりはなかったと語られるだけである。そして、なぜか武は自宅に帰ってきた。これもよくわからない。予知夢がどうこう言っているが、具体的内容は不明。そこには月光がおり、にやにやと笑いながら前座とばかりに調教された永遠を繰り出す。なんでも月光の事故は、母親の差金だったらしい。詳細は不明。
(ぽっと出てきて勝手に名前をつけられ、月光に調教される永遠。一体なにゆえに出てきたのか……)
月光「武のペットはもういないんだよぉ!」
ほんのちょっぴりで永遠を引っ込めてしまう。本当に永遠とは一体なんだったのか。ちなみにもう彼女の出番はない。永久に。
武と月光の骨肉の争いは、普通に熱く盛り上がるので、ぜひその目で確かめてほしい。武と月光の実力差は特訓の成果もあってほぼ埋まっていた。やや武の方が優勢だろうか。
月光の能力、“エンジェルハント”の瞬間移動と武の未来予知の激突。月光の出現位置を予知して切り返し、かと思えば予知の上を行く超スピードを見せる。息もつかせぬ死闘だ。
その二人の闘争に割って入るものがあった。トレイラーとウィザードブレスである。二人の闘争は、悲しいことに二人だけの闘争にはならないのだ。この両陣営だが、空中に浮かんで勝鬨をあげているが、なんとも絵面がしょぼくてチーマーの抗争にしか見えない。ちなみにリアルタイムで放送当初、次の番組である桜TrickでクローズのCMが流れたのだが、まったく似たような感じだった。
(戦争という名のチーマーの抗争。なぜこれほどしょぼい絵面なのだろうか。しかし、魔法戦争という作品の庶民性には合致している)
武の実力が予想以上に高く、月光は泣き落とし作戦にでる。あまりにもセコい。Vガンダムの最後の方みたいだ。武に不意打ちを仕掛けるその刹那、くるみが二人の間に割って入ったのだが、くるみがいつ開放されのかはまったくの不明である。またくるみがラストレクイエムから聞かされたという衝撃の真実とやらも詳細は不明。徹底的に月光と武の戦いにフォーカスしているのだ。
(苦し紛れの月光。無様!)
月光「ち、ちがう!僕のせいじゃないよぉ!」
この月光のどうしようもないクズっぷりは最後まで楽しませてくれる。くるみは口と鼻から大量の血を流して瀕死だ。魔法戦争ではダメージを負ったキャラは必ず鼻血を出す。ここでもその特徴的な演出は見える。これが効果的で、重篤な傷を負った感じがよく出ている。
怒りに震える武への言い訳。この兄弟は基本的にしゃべり方がなよなよしていて気持ち悪い。しかし、今日の武は怒髪天。問答無用で月光に斬りかかる。月光は吹き飛ばされて地面に叩きつけられて、そこにはクレーターができるほどだ。武の強さを感じられるのは、正直ここくらいだ。あの弱かった武が懐かしい。最近のアニメは最初から主人公が強くて、修行パートがなくてつまらないと考える方も、魔法戦争なら楽しめるであろう。
月光「元はといえば、武が悪いんだろ……そうだよ……お前が僕からすべてを奪ったから、こんなことになったんだァー!!」
かつては普通の兄弟だったはずの武と月光。運命は二人を引き裂き、まさしく死闘へと誘った。この武と月光の骨肉の争い。そして、ウィザードブレスとトレイラーの抗争。数えきれない命が失われていった。その戦争のただなかに、六ちゃんの絞りだすようなつぶやきが虚しく響く。
六ちゃん「もう……戦うのは……やめてぇ!」
戦争状態とは一種の狂気であろう。六ちゃんはお馬鹿な一面もたくさんあるが、基本的にはウィザードブレスの中級魔法使いとして、戦火に身を投じ兄の奪還やトレイラー打倒のために戦い続けてきた。それは高校生にすぎない六ちゃんにとっては、過酷すぎる戦いの連続でもあった。その狂った状況に適応してしまったことは、悲劇とさえ言えるかもしれない。しかし、瀕死のくるみ、殺しあう武と月光の姿を目の当たりにしてしまった六ちゃんは正気に戻ってしまったのである。
そして、武と月光は世界から消失した。桃花が二人を過去に送ったのだ。なぜそうしたかについては、詳細は不明。ただ「これでいいんですよ……和馬さん」とだけ、桃花はつぶやいた。さらにラストレクイエムについても衝撃の真実が明らかになる。陽子に治癒魔法をかけるラストレクイエム。ヴァイオレット先生との会話は意味深だ。先生はたとえ和馬の心が変わっても、忠誠を誓うという。なんとラストレクイエムのポケットから、あのくるみの水着写真が出てきたのだ。写真部から買ったのではない。あの時、くるみが武に渡したものだ。三話を覚えているだろうか。
ラストレクイエム「母さん、未来はきっと変えられるよ」
ラストレクイエムが武なのだろうか。詳細は不明。この最終話、すべてをぶん投げているので、だいたいのことの詳細はわからないのだ。
武が目を覚ますと、そこは平和なすばる魔法学院であった。武は陽子を見つけ駆け寄ろうとするが、様子がおかしい。月光に殺されたはずの一氏先生と談笑しているではないか。こんな明るい表情の陽子は、ここでしか見られない。
(すばる魔法学院の姫)
武は衝撃と恐怖に震え、やつれているように見えるほどだ。といっても姫時代の母を見てショックを受けているのではない。
(現在においても度々引用される超有名シーン。魔法学院そのものの体現であり、その汎用性は魔法戦争伝説の最後を飾るにふさわしい)
武「んだよ……意味がわかんねえ……」
視聴者にも、おそらくは製作陣にさえも、意味はわかるまい。壁のポスターには魔女っ子マホコ。予告のない最終話でもしっかり自己主張している。ポスターには1998年と書かれていた。ついに武は過去に送られたという、悪夢じみた現実を認識せざるを得ない。
ワシズ様「ちーびちゃん!」
桃花「離してください鷲津先輩!」
このけいおんのあずにゃんと唯っぽい会話の主は過去のワシズ様と桃花だ。そこには月臣やラストレクイエムの姿もあった。
ラストレクイエム「あれはメジロかな……」
彼が眠っていた日本家屋の庭にも、メジロが鳴いていた。美しき伏線回収に心が震えた。ワシズ様はラストレクイエムが好きだったメジロの声が聞けるように、あの和室を選んだに違いない。台詞のみに頼るのではなく、演出の情報量が多い。魔法戦争演出の巧みさは最後まで光る。さらに衝撃的なのは、月光もこの一団にいることだった。どうも彼はたけしよりも前の時代に送られたらしい。
武「夢なら覚めてくれ……」
武はこの世界でたったひとりになってしまった。見知らぬ過去の世界で生きていかねばならないのだろうか。詳細は不明というか、原作を読めばわかるのだろう。
ワシズ様「じゃあ俺はぁ、おちびちゃんを溶かしちゃおっかなぁ~」
笑いながら通り過ぎる一団。そこで月光だけがふと立ち止まり、武の方に振り返る。ホラーみたいで恐ろしい。魔法戦争は多様な顔を持つ。
月光「待ってたよ、武」
武「きっと……母さんは……」
この意味深は台詞も、もちろん詳細は不明。そして、正真正銘ラストカット。荒廃した現存世界、武と月光がいたクレーターを見つめるくるみと六ちゃん。
六ちゃん「武君……」
アニメ魔法戦争は終わった。永遠に。すさまじいのはこの後何のフォローもないのだ。Cパートすら存在せず、ぶつ切りのままエンディング、次番組の予告になる。すべてを放り投げるかのような終焉だが、魔法戦争は独特のぶつ切り演出を繰り返してきた。最終話で積み重ねてきた演出を一気に噴出させてくるのは、むしろ当然の作劇であろう。
最後に魔法戦争制作進行・予告担当の米太郎さんの言葉で締めくくろう。