寿司は無限

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魔法戦争全話レビュー 第八話『ウィザードブレスの闇』

第八話『ウィザードブレスの闇』

脚本:石野敦夫 演出:伊藤尚往 絵コンテ:伊藤尚往 作画監督:垪和等

 

 今まで魔法戦争はウィザードブレス側の視点で進んできた。しかし、第八話ではワシズ様の口を通して、ゴーストトレイラー側の視点が語られ、物語は混迷していく。作品世界の深まりという意味でも、この話は見逃せないのだ。

 時はバンバン進んで四月。入学式には魔法使いになった伊田の妹・二葉と月光の姿があった。二葉の運命もまた、兄妹喧嘩のすえに魔法を使われたことで大きく変わっていく。伊田は安易に魔法なんか使うべきではなかった。月光は武を仲直りするふりをして、みんなに近づいていく。風呂で背中を流したり、一緒に昼飯を食べたりして、つかの間の安息が訪れる。しかし、深夜、武が巨大な月光に責められる悪夢に目を覚ますと、ある来訪者があった。ワシズ様である。

 

 ここでワシズ様から、ウィザードブレス暗黒の歴史が語られる。8世紀末から魔法使いは魔法使いによって支配されていた。当時のウィザードブレスは歪んだ貴族主義的な思想に凝り固まり、自分たち以外の魔法使いを迫害していたのだ。魔法は一部の特権階級のみが使用を許されているとし、たくさんの魔法使いが殺されていった。魔法は若いころに発現させれば、誰にでも使用可能な能力であるにも関わらず、である。

 トレイラー側の視点がもたらされることにより、魔法戦争が歪んだ貴族主義的魔法アニメに対するカウンターだということが明確になる。魔法戦争は血統由来で魔法が発現するタイプの作品すべてへの強烈なメタなのだ。

 トレイラーの魔法至上主義が他のアニメの歪んだ貴族主義と一線を画するのは、その根本に魔法の開放という考え方があるからだ。魔法の資質が血統によって遺伝するタイプの設定ではこの味わいはない。むしろ誰にでも使える魔法を規制して、特権的な地位を築いているのは、ウィザードブレスサイドということになる。もちろんこの時点でのワシズ様の言にどれほどの信憑性があるかはわからないが、このアニメは一方的な戦争の大義を否定しているので、この時の彼の言葉にも一定の真実があると捉えたほうがよかろう。

 これは封印された歴史で、魔法史から排除されたものなのだ。また時代はくだり、ワシズ様の学生時代の話になる。ワシズ様とラストレクイエム、そして藤川月臣の三人は親友同士だった。そして、ラストレクイエムはその強力で特異な資質ゆえに、ウィザードブレスから勧誘を受けていた。

若き日のワシズ様「なんだよお前、ウィザードブレスに入らないのか?」

ラストレクイエム「嫌なんだよ。ヤツらが欲しがっているのは、戦争の道具としての僕だろ。嫌だよ。僕の魔法は僕のものだ。使い方は僕が決める」

 安易に大樹に依らないラストレクイエムの意志に、ワシズ様たちは何も言えなかった。魔法戦争の反戦要素がここにきてじわりと出てきた。しかし、ウィザードブレスの陰謀は、否応なしにラストレクイエムを取り囲んでいる。彼を懐柔できないと知ったウィザードブレスはあろうことか、両親を拉致監禁して脅しをしてきたのだ。怒りに我を忘れ、ウィザードブレスの人間に刃を向けるラストレクイエム。しかし、両親は開放されることなく殺されて、対ウィザードブレスの激しい戦争に身を投じることとなった。

 殺戮の道具として使われることを嫌ったラストレクイエムが、トレイラーのトップとして多くの命を奪う結果になったのは皮肉だ。また、ウィザードブレス側も強硬策に出すぎな気がする。ラストレクイエムの能力はあらゆる物体を消滅させること。敵に回したらこうもなろう。希少な能力ほしさに急いた方にも多くの問題はあるし、家族を拉致して脅迫するなどとは許されることではない。トレイラーのやってきた数々の殺人や洗脳が正当化されはしないが、ラストレクイエムらがウィザードブレスとの戦争を行う理由もわかる。魔法戦争は正義の戦争など存在しないというメッセージを放っている反戦作品なのだ。

 その戦争のさなか、藤川月臣は千木陽子をかばって命を落とした。ここではじめて武は母が魔法使いであったことを知る。

武「どうしてこんな話を俺に聞かせた!?」

ワシズ様「お前をゴーストトレイラーに勧誘しようと思ってな」

 武は当然この誘いには乗らないが、ウィザードブレスを信じることもできない。ワシズ様は月臣の形見であるトワイライトを返せと言っくるが、これにも応じるはずはない。

ワシズ様「あれも嫌これも嫌じゃあ道理が通らねえ」

 トレイラーかウィザードブレスがどちらか選べと言ってくるが、別に二者択一というわけではない。コミュニティはたくさんあるし、かつてラストレクイエムがそうしたように自分で勝手に結成することもできる。武自身がコミュニティを立ち上げればいいのだ。つまりたけし軍団である。ワシズ様は「ストライクビジョンが奴らの本質を暴く」と言い残して去っていく。武は一体、いかなる道を選択するのだろうか。

 そして、ゴーストトレイラー視点は最後まで貫かれる。超絶技巧特異魔法の発動により時間が凍ったラストレクイエムが封じられている場所に画面が写る。桜の枝に止まるメジロ、その声と心地よい春風を通す和室に、ラストレクイエムは寝かされていた。その横でうたた寝するワシズ様。これを見た時、ひっくり返るような衝撃を受けた。それっぽい城の最深部に封印されているものだと思っていたのだ。

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(美しき春の庭。メジロの鳴き声は和馬の耳に届くだろうか)

 考えても見れば当然である。城の最深部などより、風通しのよい和室の方がいいに決まっている。ワシズ様のラストレクイエムを思う気持ちが伝わってくる素晴らしいシーンだ。横でうたた寝しているのもまたいい。ずっとラストレクイエムに寄り添っていたのだろう。

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 (親友の傍らで眠るワシズ様。おそらく夜通し和馬を見守っていたのだろう)

 何も語らずとも、しみじみと人の思いが伝わってくる。魔法戦争最大の見どころと言ってもいい。キャラクターの心を視聴者に伝えるには、台詞よりもこうした鮮やかな演出が多くを語る場合があるということを思い知らされる。ちなみに、ゴーストトレイラーはきちんと巨大な城塞を本部として持っている。