寿司は無限

アニメとかについて書きます。寿司は無限などと言っている割にせいぜい30皿が限度です

2015年のアニメ映画ランキング

 久々の更新です。2015年はアニメ映画を見ようと思っていたのですが、シンドバット空とぶ姫と秘密の島、ラブライブの映画、プロジェクトイトーなどを見落としてしまったんは残念。特にシンドバットなどは「誰が見るかわからないアニメ映画」の頂点で、これを落としたのは痛い、と反省しています。あとサイボーグ009vsデビルマンも……。たまゆら境界の彼方アルペジオ、WUGなど、好きな作品の劇場版も劇場で見なかったので、今年はもっとアニメ映画を見たい。それにしても、こうして挙げてみると、全然見れてねえな……。

 とりあえずガラスの花と壊す世界は絶対見に行くぞ!あとセレクター、聲の形、この世界の片隅には楽しみにしています。そして忘れてならないのが、あの星を追う子ども新海誠の新作です。また星を追う子どもみたいな映画が見たいですね。

 

えー、それでは全然アニメ映画見てないなりに、去年のアニメ映画をランキング形式で発表していくゾ。

 

第10位 バケモノの子

 細田守映画の最高傑作だと思っています。細田映画の中でも一番普通のツッコミ所が多い普通のアニメ映画で楽しかった。異世界の楽しげな様子が楽しかった(何も言ってねえ)。うん、細田映画最楽だ。

 人間の心の闇が念動力のような現象を生じさせるなら、人間の持つ可能性は素晴らしいと思った。アレで(なぜか)クジラになったりできるなら、世界はメチャクチャだ。それともバケモノ世界の空気が人間の心の闇と反応して、超常の力を生むのか?

 

第9位 GAMBA ガンバと仲間たち

 普通……。何も言うことがないくらい普通……。仲間の一人が大して意味もなく死ぬのはどうなんだ。あとノロイがなんかオカマ系のキャラっぽくなってて草。

 

第8位 劇場版 ムーミン 南の海で楽しいバカンス

 本国フィンランドで制作されたムーミン映画。日本人の馴染み深いアニメとはちょっとテイストが異なる。舶来ちょっと芸術っぽいアニメ。いきなりムーミン一家が難破船のモノを漁り、海賊を出しぬいて財宝を手にする。そして、清貧なフィンランドの地を離れて、俗な欲望と金銭、虚栄心が渦巻くフランス・リヴィエラへと向かう。フランス人は資本主義の走狗かアーティスト気取りの貴族……いずれにせよ俗物っぽい奴らだということが伝わってくる。ムーミンが恋敵に放つ、「警告したはずだ!」というセリフが好き。

 

第7位 百日紅~Miss HOKUSAI~

 大爆死した原恵一最新作。そして、フランスで人気。今でもジャポニズムというはあるのだろうかと感じる。楽しかったのは、呪術的パート。魂が舞い踊り、地獄絵が現実にせり出す江戸の夜の闇を北斎が切る――

 葛飾北斎といえば、同時代人に鶴屋南北がいる。鶴屋南北といえば、戦慄怪奇ファイルコワすぎ!で東海道四谷怪談によって古の神召喚システムを作り上げた男だ。南北は幼少期をタタリ村で過ごし、呪術を修めた。葛飾北斎もまたタタリ村で呪術や怪異に立ち向かう術を学んでいたとしたら。

 時は文政8年(1825年)、北斎65歳の夏……かつて共に呪術を学んだ鶴屋南北が老境に入り、邪悪な呪術を完成させて、古の神を現世に呼びだそうと画策していた。ついに南北は「東海道四谷怪談」に邪神召喚システムを組み込み、上演を開始してしまう。江戸の人々の想念の集積を利用し、邪神が顕現しようとする。世界を混沌に還そうとする南北の野望を砕くために、北斎とお栄の最後の戦いが始まる――百日紅2!!!とかありそう

 

第6位 台風のノルダ

 評判は悪いみたいだけど俺はそこそこ好きだし、若い才能を応援したい。次世代の新海誠くらいにはなってほしい。ノルダが艦これの時雨みたいでエロくて可愛かったし、主人公の男の娘もエロくて可愛かった。クラスメイトの女子に腐女子風の子がいると思うんですけど、彼女は一番いいシーンを特等席でかぶりつきで見られなくて可哀想だなあと感じる。俺ガイルの海老名妃菜が八幡と葉山の交流を特等席でかぶりつきで見れないのと同じ。

 ラピュタごっことエヴァごっこを全力で楽しんでいるのが伝わってきてこちらも嬉しくなってしまう。意味もなく変な石持ってるのとか最高。飛行石と怪盗ドラパン謎の挑戦状みたいな首輪とゴチャゴチャして見にくいし。

 最大の問題はラピュタごっこなら、星を追う子どもを見れば……となってしまうところだろうか。

 

第5位 花とアリス殺人事件

 2015年一発目の誰が見るかわからないアニメ映画だった。思いがけない良作百合アニメ。ロトスコープのおかげでリアルな手触りと理想化が上手く決まっていてた。陸奥睦美のキャラ造形も面白かったし、もっと出して欲しかった。花とアリスが一時、心が通じ合えたかのような、美しい瞬間を切り出していたと思います。

 

第4位 UFO学園の秘密

 個人的な印象を述べると、神秘の法以上仏陀再誕以下といった具合。幸福映画としては、良くもなく悪くもなく、微妙。ただアンナとハルとナツミは可愛かった。ナツミが怪しい風貌の自称大学教授に、退行催眠をかけられて悶えるところが好き♡ナツミはココロが弱くて、悪の組織・天才塾に付け込まれるんですけど、俺が天才塾の者だったら、絶対仲良くなって恋に発展したい♡

 舞台となるナスカ学園はもろに那須にある幸福の科学学園で、その内部の様子が学園生活が伺いしれてよかった。共学の全寮制っていう舞台立てがもう素敵だと思います。はがないの実写映画(ロケ地が豊郷小)を見ると、けいおん聖地巡礼をした気になれるようなものです。

 他にも青春ラブコメパートのウザさも、幸福映画としては逆に新鮮で面白い。でも映画開始時点でカップルできてる必要あったのかしら。オタクキャラだけ浮いていて可哀想だった。でも裏設定ではクラスにはアイツを好きな女子が何人かいるらしい……。うーん……。まあゴチャゴチャ喧嘩した後に流れる謎のバントの曲は嗤えました。それに中盤のスピリチュアルパートで、本当の自分とは云々も、いかにも宗教映画を見ているという感じがして、幸福アニメの喜びがある。

 ただスピリチュアルパートを経ての、彼らの発心が明らかに唐突。映画を撮りたいとか、教育者になりたいとか、お前らそんなこと欠片もいってなかったでしょ。でも音楽の水澤有一が「宇宙時代がやってきた!UFO情報最新ファイル」のスタッフコメントで指摘していた通り、ハルの宗教の勉強をしたいという目覚めはキュートだったし、声も可愛い。アンナもクソダサ英字プリントTシャツ(BearとかRose)着てて、逆によかった。けいおんの唯みたい。

 ライトサイド宇宙人の頭目がメーテルにしか見えないんだけど、上記のUFO情報最新ファイルでも、大川先生が「メーテル型の宇宙人」などと発言していた。やっぱり松本零士スペースオペラなんすねぇ……。でも松本零士だけじゃなくて、永井豪も入ってるんだよなぁ……。デビルマン化するし。

 

第3位 劇場版ガールズアンドパンツァー

 流行にのれなくてめっちゃスネていたけど、まあまあ面白かった。ついでに楽しいムーミン一家ムーミン谷の彗星を見てそれも面白い映画だった。変なジジイが「It's catastrophe!!!!!」などと叫び出したり。世界の破滅を告げられたムーミンとミイ、スニフが真実を確かめるために、旅立つ。その旅路の中でスナフキンやフローレンなど後のレギュラーキャラと出会う、いわばムーミンZero的な内容だ。ボス戦が三回くらいあるし、RPGっぽい話運びで、RPGツクール2000とかでムーミンRPGとかあったらメッチャやりたい!ムーミンが主人公で、スニフが商人、ミイが盗賊、スナフキンが吟遊詩人、フローレンが僧侶系キャラって感じで。多分大ダコ戦前のイベントで守り刀を入手しないとスニフにはまともな武器がなさそう。あとアンゴスツーラ戦で手に入るスナフキンのナイフはパパスのつるぎ的なポジションだと思う。

 巨大彗星が地球に接近し、海は干上がり空は禍々しい色に染まり、しっかりと世界の終焉を感じることができる。終わりの中で、ムーミンたちはそれぞれの生を生きる(何にも言ってねえ)。世界の終わりよりも切手なヘムレンさんや、日常的な思考を持ち続けるムーミン・ママが面白かった。ソ・ラ・ノ・ヲ・トみたいな世界の終わるけれども、そこで人間たち(ムーミンは人間じゃないけど)どう生きるか、そんなアニメ。

 彗星の重力の影響に依る(多分)規格外引き潮が終わり、海が還ってくる。ムーミンたちが海を迎えるシーンは感動的だった。エンディング・テーマは「この宇宙(そら)に伝えたい」……ロボットアニメっぽい。

 終焉後世界といえば、ガルパンの世界も人類は衰退し、永い黄昏を生きている説がある。ムーミン谷の彗星のように、何らかのカタストロフがあり、人類は空母様の都市を建造し、多くはそこに逃れて、陸地には僅かな港町が残れされているというのである。内陸部の都市や施設の多くは廃墟と化し、そこでは武道に形を変えて、旧世界の戦争の残滓が躍動している。大洗女子が廃校の憂き目に遭うのも、人類が力を失って空母都市すらも必要でなくなりつつあるからなのかもしれない。

 西住殿の部屋にあった不気味なクマのぬいぐるみに言い訳的な設定が付け加えられたのがおかしかった。ボコの存在はハッキリ言って異常だ。あのアイテム一つで、西住殿にただならぬ感じが加わるのですごく好き。イコライザー序盤のマッコールさんの暮らしみたい。マッコールさんも西住殿も、最高級の力(殺人or戦車道)を持ちながら、一見穏やかな暮らしを求めているところが似ている。彼らは殺人(戦車道)にしか生きる意味を見出せないのが、物悲しい。まあ戦車道は武道だし、別には悲しくはないのか。

 

 第2位 心が叫びたがってるんだ

 M3の岡田麿里アイドルマスターゼノグラシア長井龍雪がタッグを組んだッ!まあ俺がそんなに多くを語らなくてもいいでしょうが、後半のセリフ回しがロボットアニメっぽくて楽しかった。

「成瀬順ッ!」「坂上拓実ッ!」

「これから、傷つけるから!(ギュイーン!)」

「このうそつき者!(ピシュン!)思わせぶりなことばっかりいって!(ピシュン!!ピシュン!!)」

「あったりまえだろ!もう戦闘(げき)は始まってるんだぜ!」

 あとはこういう青春モノではモブキャラの扱い方がブッチギリで超越してよかったと思います。この辺のバランスがいいと、ほんッッッッッとうに見やすい!見やすくて見やすくて、ストーリーも映像もするする入ってくる。完璧と言っていいかどうかはわかりませんが、俺の狭い見識の中では、現状No.1ではないかと思います。2015年モブ使い上手かったで賞を授与したいです。ライムスター宇多丸のレビューも、ここの部分だけはは同意見。

 

第1位 劇場版デート・ア・ライブ 万由里ジャッジメント

 デート・ア・ライブ、最高ーーーー!既存の精霊全員のデートシーンがよかった。楽しいデートを見せてくれて、監督以下スタッフのみなさんには感謝しかない。今回の映画のオリキャラ、万由里は精霊達の霊力から生まれた彼女らのイデアシスタープリンセス一期の黄色い帽子の少女のような存在で(わかりにくい)、生命の樹(セフィラ)に近づく者を監視する神の装置。万由里は、この世界を認識してから士道のことを愛していたのであった。今際の際の「生まれた時から愛していた」というセリフが好きだ。

 万由里は生命の木に近づく者を監視する神の装置、と言ったが、神はケルビムと炎の剣に生命の樹を護らせたそうだ。ここでいう生命の樹とは、セフィラの樹に対応する精霊達の力のことだ。アダムとイブが知恵の実を得て善悪を知るものとなり、楽園を追放された。一方の生命の実には永遠の生命を与える力があり、それを得た「じゅすへる」の一族は地の底に封じられた……というようなことを稗田礼二郎が言っていたので、妖怪ハンターの「生命の木」を読むか、映画「奇談」を見ましょう。生命の実だけを食べた一族は知能が低いらしいが、十香のINT値がブッチギリで超越して低い32なのとは関係ない(と思う)。

 今回の劇場版は針に穴を通すような事業だったと思う。まずは精霊全員とのデートをやらなくてはならず、新キャラを出して、戦闘もやらねばならない。そして、それは当然ファンを満足させるものでなければ……。本編で八舞姉妹、美九はデートらしいデートをしていない。ストーリー的な都合があり、初期のコンセプト通りにはいかないのは仕方ないが、それでは寂しい。デート成分の補完としては、短編集があるが、アニメでもしっかりと見せてくれるのは嬉しかった。というかデートは全員よかった。精霊たち一人ひとりに向き合ったいいデートだっと思う。

 その楽しいデートを見つめる影、万由里。万由里は士道たちを見つめながら、その行動をトレースしていく。一人きりで、世界に満ちる喜びを、少しずつ集めていく。万由里が観測することをやめようとする時、平穏が崩壊するのが悲しい。でも、Jホラーの幽霊みたいな出方する時があってちょっと怖い。

 戦闘も意外と長尺で全員戦うし、十香のアルティメット化などの劇場版的なスペシャル感があってよかったと思う。90分のファン向け劇場版として、これ以上望むべきではないだろう。劇場版デート・ア・ライブ万由里ジャッジメントは厳しい要件に挑み、高い水準でこれ満たしている。この達成を偉大と言わずしてなんと言おうか!

薄墨初美闇の客人説

 野獣先輩○○説風の新作です。薄墨初美といえば、小林立の漫画『咲-Saki-』の登場人物だ。咲-Saki-についての基本的な解説は必要ないだろう。永水女子三年でポジションは副将。明らかに子供な体格と過剰な露出で人気である。また忘れてはならないのが、彼女の能力“鬼門”だ。自身が北家の時、東と北を鳴くことで四喜和を呼びこむ。筆者は様々な検証の結果、この能力が妖怪ハンターシリーズの一作、「闇の客人」をモチーフにしていることを発見した。

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 薄墨初美が“能力”を発現させる時、巨大な鳥居のビジョンが立ち現れて、その向こう側の“異界”から何か禍々しいものが出現する。その禍々しい“何か”こそが彼女の異能の本質なのだろう。鬼門(東北)に導かれるように、裏鬼門(南西)が手配に出現する。

 「鳥居の向こうの異界から出現する禍々しい存在」……妖怪ハンター闇の客人をすでに読まれた方ならピンときたであろう。そのものずばり、『闇の客人』とは鳥居の向こうの異界とそこから現れる異形の神についての漫画なのだ!

 妖怪ハンターとは諸星大二郎の代表作の一つで、妖怪の実在を唱え学会を追放された異端の考古学者・稗田礼二郎が全国各地の異形の存在と壮絶な死闘を繰り広げる…………のではなく、異形の者達の解説や研究が主な内容でいわゆる活劇的なものとは距離を置いている。ジャンプ漫画でも『地獄先生ぬ~べ~』とはちょっと違うのだ。まあ考古学者なのだから当然といえるが……(ジョナサン・ジョースターは考古学者だったけど)。

 今回の『闇の客人』では、町おこしのために“大鳥村”なる寒村に古来から伝わっていたという“祭り”を復古させるにあたり、考古学者として監修を依頼された稗田が、その祭りの開催を見届けるというものだ。大鳥村というように、貧しい村には似つかわしくない異様に巨大な鳥居がかつてあり、それもまた再現されている。そして、その異界から邪ぶる神が顕現して、巫女役だった少女の首を引き裂く。

 大鳥村の本来の祭りは、東の彼方にあるという「常世」やニライカナイのような異界から、幸神を招き饗応する神事であった。神は異界から幸(豊穣)をもたらしてくれるのである。そして禍津神を招いてしまった時には、巫女を人身御供として捧げて神を下社に迎え入れ、村人はみな物忌して禍の過ぎ去るのを待つ、というが正式な仕方であった。しかし、下社の位置には新築のホテルに人が詰まっている。儀式をねじ曲げてしまったことが、祭りを、村を崩壊させていくのである。

 禍津神を異界に送り返すには、鬼の仮面をつけて“鬼踊り”なる舞いを舞わねばならない。旧時代の儀式を唯一知る半ば痴呆のような老人が物悲しい踊りで神を誘い、共に異界へと消えることで、この漫画は終わる。

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  鳥居は異界の門であることが一目瞭然だ。ただこれだけはいささかこじつけっぽい(夕立)。鳥居という存在が此岸と彼岸を分けている的なイメージはありふれていると言えないこともない。ここで注目したいのが、なにゆえに禍津神が来てしまったのか、という点だ。旧時代、村の大鳥居は幸に満ちた「常世」があるとされる東を向いていた。そして、新築にするにあたって、駅からの見栄えを考慮して、その向きを変えてしまった……。この画像を見れば、一発で理解してもらえるであろう。

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 完全に一致している。東北に向けて建造された鳥居は、村にとって最悪の禍を招いてしまったのだ。しかしながら、鳥居を正しく東方に向ければ、それで絶対に幸神がくるという保証はない。神霊の世界とは、そう簡単に人間の思い通りに動いてくれるものではないのだ。なぜ古文書に禍津神への対処法が事細かに記されているのか。それは異界から来るものを人間に選ぶことができないからだ。できるのはせいぜい少しでも成功率を上げて、祈ることしかできない。そして、失敗……すなわち禍津神を招いてしまった時のために、生贄を用意して……。

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(稗田先生の解説。門の方角や祝詞神意の前では人間のできることには限界があるのだ)

 幸神を招き饗応する神事、そして、禍津神がやってきた時のための生贄。何か思い出さないだろうか。そう、神代小蒔と石戸霞の関係である。神代小蒔は天孫降臨神話をモチーフにした“九面”という力を持つ。彼女の家系の正当血統は九柱の女神を憑依させて、その力を振るうことができ、インハイ2回戦でも片岡優希らを苦しめた。そして神のローテーションはある程度操作可能らしいが、イレギュラーも存在する。

 

「分家の中でもあなたが一番姫様に血が近い。だからこそ生きた天倪となるので す。姫が宿し使う女神は9人ではなく、ごくまれに恐ろしいものが降りてくる。それを代わりにおまえが宿し手なずけるのです」(咲-Saki-10巻186p)

 

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 霞が宿す禍々しい存在。異界から来るものを完全に人間が選ぶことは叶わない。天倪とは禍事を移しやるための形代の一種で、霞は生贄とはいわぬまでも、小蒔に代わり禍津神を背負うことを運命づけられている。妖怪ハンター『闇の客人』と『咲-Saki-』の永水女子周辺の話、これらは実は同じことを語っていたことがお分かりいただけただろうか。

 暗黒神話咲-Saki-説でも説明した通り、小林立先生は諸星大二郎作品にインスピレーションを受けている可能性が高い。優れた才能というのは、共鳴するものなのであろう。

魔法戦争全話レビュー 最終話『世界からの消失』

第十二話(最終話)『世界からの消失』

脚本:村上桃子演出:真野 玲絵コンテ:佐藤雄三作画監督:江畑諒真・高田晴仁・東島 久

 

 一年前の今日、一つの伝説が生まれた。一年前の今日を境として、アニメシーンはガラリと音を立てて変わった。魔法戦争の完結によってである。

 武vs月光の炎の最終対決、そして、魔法戦争の行方は……。さて、魔法戦争最終話には、他のアニメにはあまり見られない特徴がある。それは今まで繰り返されてきた、ぶつ切り演出の極地ともいうべきものだ。つまり、第十一話と最終話の間に、一話分抜けているのかのような隔たりがあるのだ。前回、トレイラー本部に潜入したが、その後どうなったかは直接的に描かれない。武のモノローグで五十島の手がかりはなかったと語られるだけである。そして、なぜか武は自宅に帰ってきた。これもよくわからない。予知夢がどうこう言っているが、具体的内容は不明。そこには月光がおり、にやにやと笑いながら前座とばかりに調教された永遠を繰り出す。なんでも月光の事故は、母親の差金だったらしい。詳細は不明。

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(ぽっと出てきて勝手に名前をつけられ、月光に調教される永遠。一体なにゆえに出てきたのか……)

月光「武のペットはもういないんだよぉ!」

 ほんのちょっぴりで永遠を引っ込めてしまう。本当に永遠とは一体なんだったのか。ちなみにもう彼女の出番はない。永久に。

 武と月光の骨肉の争いは、普通に熱く盛り上がるので、ぜひその目で確かめてほしい。武と月光の実力差は特訓の成果もあってほぼ埋まっていた。やや武の方が優勢だろうか。

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 月光の能力、“エンジェルハント”の瞬間移動と武の未来予知の激突。月光の出現位置を予知して切り返し、かと思えば予知の上を行く超スピードを見せる。息もつかせぬ死闘だ。

 その二人の闘争に割って入るものがあった。トレイラーとウィザードブレスである。二人の闘争は、悲しいことに二人だけの闘争にはならないのだ。この両陣営だが、空中に浮かんで勝鬨をあげているが、なんとも絵面がしょぼくてチーマーの抗争にしか見えない。ちなみにリアルタイムで放送当初、次の番組である桜TrickでクローズのCMが流れたのだが、まったく似たような感じだった。

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 (戦争という名のチーマーの抗争。なぜこれほどしょぼい絵面なのだろうか。しかし、魔法戦争という作品の庶民性には合致している)

 武の実力が予想以上に高く、月光は泣き落とし作戦にでる。あまりにもセコい。Vガンダムの最後の方みたいだ。武に不意打ちを仕掛けるその刹那、くるみが二人の間に割って入ったのだが、くるみがいつ開放されのかはまったくの不明である。またくるみがラストレクイエムから聞かされたという衝撃の真実とやらも詳細は不明。徹底的に月光と武の戦いにフォーカスしているのだ。

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 (苦し紛れの月光。無様!)

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月光「ち、ちがう!僕のせいじゃないよぉ!」

 この月光のどうしようもないクズっぷりは最後まで楽しませてくれる。くるみは口と鼻から大量の血を流して瀕死だ。魔法戦争ではダメージを負ったキャラは必ず鼻血を出す。ここでもその特徴的な演出は見える。これが効果的で、重篤な傷を負った感じがよく出ている。

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 怒りに震える武への言い訳。この兄弟は基本的にしゃべり方がなよなよしていて気持ち悪い。しかし、今日の武は怒髪天。問答無用で月光に斬りかかる。月光は吹き飛ばされて地面に叩きつけられて、そこにはクレーターができるほどだ。武の強さを感じられるのは、正直ここくらいだ。あの弱かった武が懐かしい。最近のアニメは最初から主人公が強くて、修行パートがなくてつまらないと考える方も、魔法戦争なら楽しめるであろう。

月光「元はといえば、武が悪いんだろ……そうだよ……お前が僕からすべてを奪ったから、こんなことになったんだァー!!」

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  かつては普通の兄弟だったはずの武と月光。運命は二人を引き裂き、まさしく死闘へと誘った。この武と月光の骨肉の争い。そして、ウィザードブレスとトレイラーの抗争。数えきれない命が失われていった。その戦争のただなかに、六ちゃんの絞りだすようなつぶやきが虚しく響く。

六ちゃん「もう……戦うのは……やめてぇ!」

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 戦争状態とは一種の狂気であろう。六ちゃんはお馬鹿な一面もたくさんあるが、基本的にはウィザードブレスの中級魔法使いとして、戦火に身を投じ兄の奪還やトレイラー打倒のために戦い続けてきた。それは高校生にすぎない六ちゃんにとっては、過酷すぎる戦いの連続でもあった。その狂った状況に適応してしまったことは、悲劇とさえ言えるかもしれない。しかし、瀕死のくるみ、殺しあう武と月光の姿を目の当たりにしてしまった六ちゃんは正気に戻ってしまったのである。

 そして、武と月光は世界から消失した。桃花が二人を過去に送ったのだ。なぜそうしたかについては、詳細は不明。ただ「これでいいんですよ……和馬さん」とだけ、桃花はつぶやいた。さらにラストレクイエムについても衝撃の真実が明らかになる。陽子に治癒魔法をかけるラストレクイエム。ヴァイオレット先生との会話は意味深だ。先生はたとえ和馬の心が変わっても、忠誠を誓うという。なんとラストレクイエムのポケットから、あのくるみの水着写真が出てきたのだ。写真部から買ったのではない。あの時、くるみが武に渡したものだ。三話を覚えているだろうか。

ラストレクイエム「母さん、未来はきっと変えられるよ」

 ラストレクイエムが武なのだろうか。詳細は不明。この最終話、すべてをぶん投げているので、だいたいのことの詳細はわからないのだ。

 武が目を覚ますと、そこは平和なすばる魔法学院であった。武は陽子を見つけ駆け寄ろうとするが、様子がおかしい。月光に殺されたはずの一氏先生と談笑しているではないか。こんな明るい表情の陽子は、ここでしか見られない。

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(すばる魔法学院の姫) 

 武は衝撃と恐怖に震え、やつれているように見えるほどだ。といっても姫時代の母を見てショックを受けているのではない。

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(現在においても度々引用される超有名シーン。魔法学院そのものの体現であり、その汎用性は魔法戦争伝説の最後を飾るにふさわしい)

武「んだよ……意味がわかんねえ……」

 視聴者にも、おそらくは製作陣にさえも、意味はわかるまい。壁のポスターには魔女っ子マホコ。予告のない最終話でもしっかり自己主張している。ポスターには1998年と書かれていた。ついに武は過去に送られたという、悪夢じみた現実を認識せざるを得ない。

ワシズ様「ちーびちゃん!」

桃花「離してください鷲津先輩!」

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 このけいおんあずにゃんと唯っぽい会話の主は過去のワシズ様と桃花だ。そこには月臣やラストレクイエムの姿もあった。

ラストレクイエム「あれはメジロかな……」

 彼が眠っていた日本家屋の庭にも、メジロが鳴いていた。美しき伏線回収に心が震えた。ワシズ様はラストレクイエムが好きだったメジロの声が聞けるように、あの和室を選んだに違いない。台詞のみに頼るのではなく、演出の情報量が多い。魔法戦争演出の巧みさは最後まで光る。さらに衝撃的なのは、月光もこの一団にいることだった。どうも彼はたけしよりも前の時代に送られたらしい。

武「夢なら覚めてくれ……」

 武はこの世界でたったひとりになってしまった。見知らぬ過去の世界で生きていかねばならないのだろうか。詳細は不明というか、原作を読めばわかるのだろう。

ワシズ様「じゃあ俺はぁ、おちびちゃんを溶かしちゃおっかなぁ~」

笑いながら通り過ぎる一団。そこで月光だけがふと立ち止まり、武の方に振り返る。ホラーみたいで恐ろしい。魔法戦争は多様な顔を持つ。

月光「待ってたよ、武」

武「きっと……母さんは……」

 この意味深は台詞も、もちろん詳細は不明。そして、正真正銘ラストカット。荒廃した現存世界、武と月光がいたクレーターを見つめるくるみと六ちゃん。

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六ちゃん「武君……」

 アニメ魔法戦争は終わった。永遠に。すさまじいのはこの後何のフォローもないのだ。Cパートすら存在せず、ぶつ切りのままエンディング、次番組の予告になる。すべてを放り投げるかのような終焉だが、魔法戦争は独特のぶつ切り演出を繰り返してきた。最終話で積み重ねてきた演出を一気に噴出させてくるのは、むしろ当然の作劇であろう。

 最後に魔法戦争制作進行・予告担当の米太郎さんの言葉で締めくくろう。

 

「まぁ、誰が悪いとかじゃないんだよw これは運命なんだ! だから運命を嗤おうw」

魔法戦争全話レビュー 第十一話『ペンドラゴンの決戦』

第十一話『ペンドラゴンの決戦』

 脚本:村上桃子 演出:間島祟寛 絵コンテ:田所 修 作画監督:谷口宏美

 

 開幕うりうり武BB。武の情けない様子に陽子は、竹刀でうりうりする。魔法戦争を代表するキーアイテム、竹刀は出てくるだけで面白いからずるい。

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 物語の前半は、ゴーストトレイラー本部から脱出を試みるくるみが中心になる。変身を解いてからの月光の態度がキモイ。

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(戦律怪奇月光キモすぎ!)

月光「悪いけど今のその姿じゃキスもしたくないなぁ。そうそうこれが僕の好きなくるみだぁ」

月光はくるみを好きなのではなく、単に武のものを奪いたいだけという本質を見透かされて怒り出す。そして、月光が怒りに任せて部屋を破壊して、そこから逃れたくるみ。

月光「鬼ごっこ?子供のころよくやったね♡」

 逃げるくるみを見て、楽しむかのような月光。こうした月光のキモさが、第十一話のキモだ。くるみは幸運にも狼神に出会うことができた。狼神と蛍の協力を得て、本部脱出を目指す。元々狼神はフラグが立っていたが、蛍まで協力してくれるのは、月光が嫌いだからだ。蛍としては、古参の自分を差し置いてワシズ様の側近面をしている月光が気に入らないのだろう。

月光「狼神さん、こんなところにいたんですか?吉平さんが探していましたよ」

狼神「へえ、吉平さんが?なんだろうな」

 みんながワシズ様のことを下の名前で読んでいるのが面白い。直属の部下にはフランクな面が伺える。ちなみにワシズ様自身は狼神のことをタカと呼ぶ。はがないかな

月光「おにごっこの次はかくれんぼかぁい?」

 月光にスカートの端を見られたくるみは絶対絶命。そこで蛍はくるみとキスをした(桜Trick)。くるみの新能力の発動条件は対象者とキスをすること。不便な能力だが、蛍は女の子なのでなんとかなった。こういう趣味はないという蛍もまんざらではなさそうだ。キスした後、楽しげに唇をなめる蛍。

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「Won(*3*)Chu KissMe!」

月光「みぃつけた!」

 気持ち悪いノリで柱を覗きこむとそこにいたのは蛍。一気にテンションが下がる月光。魔法戦争後半戦は月光の気持ち悪いノリを楽しむのがおすすめだ。狼神がワシズ様に捕まり、一人になったくるみは、なんとトレイラーのボス、龍泉寺和馬と出会ってしまう。彼に導かれるままに、鏡の奥の最深部へ連れて行かれるくるみの運命やいかに。この深部には、なんと桃花(声だけ)がいた。桃花は不在でウィザードブレスの混乱を招いていたが、トレイラーと通じていたのだろうか。もちろん詳細は不明。

 一方武はついに詠唱を教わる。いままで何をやっていたのだ。とにかく武の能力は実践レベルまで向上した。ついに殴りこみだ。六ちゃん、伊田も加わり、武たちは三人だけのくるい奪還作戦を開始する。戦争の最中、たった三人だけでささやかな幸せを守るために戦う少年少女たちの姿に涙せずにはいられない。これはもはや、たけし軍団の結成といえよう。

 トレイラー本部に行くと、偶然狼神と蛍に出会った。トレイラー本部にはお前らしかいないのかと思うくらいだ。ワシズ様とかに出会っちゃったらどうするつもりだったんだ。くるみを助けようという気持ちはお互い同じだが、狼神は武と戦闘がしたい。武の新能力のお披露目のための噛ませ、ご苦労様といったところだ。狼神は真の能力、魔法の盾を開帳するが、武のシグナルドリームの前には無力だった。蛍も伊田と戦う。伊田を圧倒するかに見えた蛍だったが、実は伊田は手加減していただけだという。彼もいつの間にか強くなっていたのだ。蛍は焔の弾丸に撃たれ敗北。月光に取って代わられるのも納得という結果になった。

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 アニメだけは蛍についてあまりわからないと思うので解説しよう。蛍の固有能力は幻術魔法サイレント・スクリーン。注射器(昏睡昇天のインジェクション)に記憶を封入して改竄・操作するという能力を持ち、人間の精神を弄ぶことで愉悦を得る。中学時代苛烈なイジメにあい精神が歪んだそうだが、おそらくその時のトラウマが、他人を思うままに操る能力は発現させたのでろう。その一方で孤独を感じ自分を必要としてくれる人間を求めており、ワシズ様やチームのために戦う。ただ、アニメにはそれらの設定は出てこない。

 そして、戦闘が終了すると、狼神たちは素直にくるみにことを教えてくれる。

狼神「あれから探しまわったが、くるみを見つけられなかった。本当にすまねぇ」

 なんでお前らは戦っていたんだと思わずにはいられない。まあ狼神としては、リターンマッチといきたかったのだろう。また負けたけど。

武「いいよ。くるみは俺が助けるから」

 馴れ馴れしくファーストネームで呼ぶ狼神に対し、対抗心が出てきたのだろうか。中盤露骨にくるみのことを面倒臭がっていた武。しかし、くるみへの思いは確かにあった。だからこそ、ここまで助けに来たのだ。武・六ちゃん・くるみ、武・月光・くるみ、武・狼神・くるみ……くるみと武を中心した三角関係は、複雑に絡み合いながら、クライマックスへと突入していく。泣いても笑っても次が最後だ。そして、ラストレクイエムから告げられた衝撃の真実とは一体……。

魔法戦争全話レビュー 第十話『消された境界』

第十話『消された境界』

脚本:ハラダサヤカ演出:佐藤雄三絵コンテ:小島正志

 

 学院は崩壊し、武は満身創痍で、くるみは月光の手に落ちた。絶望的な状況の中で、武たちの進むべき道のどちらだ。最初の見どころは六ちゃんvsヴァイオレット先生だ。なぜかヴァイオレット先生は六ちゃんや十の顔が気に入らないらしい。そして、六ちゃんはやはり先生の召喚獣に勝てない。ここで十の元カノ妃えなの登場だ。三人ががりで先生を退けて、武を担架で運ぶ。担架といってもここは魔法の世界。ただの担架ではなく武が魔法陣の上に乗っている。六ちゃんはえなのことが気に入らないらしく、彼女が十と一緒にいると露骨に嫌な顔する。武たちの身柄は一時的にえなが所属するコミュニティ、ビショップ・オブ・ザ・キャメロットが保護することとなった。キャメロットは女性のためのコミュニティだ。しかし、なぜか六ちゃんの服は用意できず、ナース姿での登場となる。えなによる嫌がらせではないだろうか

 

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 さて、戦争していないと言われてきた魔法戦争だったが、ここにきて史上最大の戦争に突入していく。ゴーストトレイラー本部、巨大な城塞にチームのメンバーたちの吶喊が響き渡る。和馬の号令の下、最初に動き出したのはワシズ様だった。彼に任された重要任務は、ギフトを作り上げた大魔法使い、ワイズマンの抹殺である。この任務は至極簡単に終わる。ワシズ様が「最初は俺か」と言った直後、ワイズマンは血まみれで倒れ伏していた。ボディガードも皆殺しになっており、ワシズ様の圧倒的な強さが伺える。ワイズマンの体から、今まで奪われてきた魔力が一気に放出されて、空には巨大なオーロラが光る。崩壊世界と現存世界を隔てる壁は消失し、現存世界で大規模な戦争が行われる。ビルの窓からぬーっと人がモブが抜けだしてきて、ピカピカ戦闘し始めるのには笑った。一般人が「空を人が飛んでる!うわー!」とか言って巻き込まれるのも面白い。これにより、戦争に巻き込まれた少年少女は次々に魔法使いとなり、トレイラー勝利の暁には魔法使いによる世界が完成しそうだ。

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 アニメでは、こんなに弱いじいさん一人殺したくらいで消えるシステムとはなんと脆弱だろうと視聴者は思ったであろう。確かに戦闘シーンもなく一瞬で殺される上に、ワシズ様は無傷でヘラヘラしているのだ。ただ原作ではもう少し仔細に描かれていて、ワイズマンは固有魔法である「相手の魔力奪う魔法」でワシズ様を苦しめるのだが、トレイラーも無策で彼を送り込んだわけではなかった。ワイズマンの妻を洗脳して、彼の魔法をキャンセルする指輪を奪っていたのだ。またワシズ様は生まれつき魔力量が多く、ほぼ無傷でワイズマンを倒すことができたのである。強敵に対してはしっかりと策を巡らせて勝つべくして勝つ、トレイラーの恐ろしさが伝わると思う。またワシズ様には弟がおり、彼はギフトで魔力を失い自殺したという過去が明らかになる。親友と弟……ワシズ様の大切なものはウィザードブレスによって大きく損なわれていたのだ。

 トレイラーの目的は魔法世界の既存勢力を滅ぼして、世界を一から構築し直す、すなわち革命である。そのような馬鹿げたことが通るわけがないと言うワイズマンに対して、ワシズ様は次のように返すのだ。

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「だろうな。だから戦争がなくらないんだ」

 魔法戦争は戦争の悲劇や繰り返される人間の愚かさを描いた大作という見方もできる。反戦という意味では、次の武の修行パートも見逃せない。陽子にキャメロットが託したのは、一時的に魔法を使えるようにするというご都合主義的アイテムだった。武になぜ戦うのか問う陽子。

武「俺には正直、この戦争に意義はよくわからない。どちらが正しいとか、それが俺に関係あるとはやっぱり思えないし……」

 武は徹底的に戦争の大義を理解しない。当然である。勝手に作られた戦争という大きな渦に巻き込まれてその生活を圧殺されているのだから。魔法戦争は反戦作品なので、戦争の大義というものを徹底的に否定している。武たちは自らのあずかり知らないところで始まった戦争に振り回されていく。武は身近な人達のためにこそ戦うとするが、その半径数メートルの世界を蹂躙するのが戦争なのだ、と魔法戦争は語るのである。過去の因縁を勝手に背負わされて、それでも、せめて自分の身の回りの人たちを守ろうと奮闘する姿はしみじみと涙をさそう。トレイラーにも、ウィザードブレスにも正義はなく、正義の戦争など存在してないという、スズキヒサシ先生のメッセージをひしひしと感じ取ることができるだろう。

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 ここで武のキャラソンが流れだす。これがひどく長い。ゲド戦記でテルーがテルーの唄を歌うシーンより長い。5分近くずっと武の歌を聞くことになる。ジャイアン・リサイタルだ。この歌と共に見せられる武の修行シーンが面白くて、目隠しをして竹刀でシバかれたり、ひたすら竹刀で人形を叩いたり、魔法とどういう関係があるのかイマイチ不明な訓練をさせられる。陽子いわく、武はまるで素人らしいが、十の特訓はまるで意味がなかったということになる

 くるみは武がトワイライトに体を貫かれて殺される夢を見ている間に、六ちゃんと武は急接近して、夕焼けをバックにほのぼのしている。次回、ついにくるみの救出作戦が始まる。魔法戦争のもう終わりに近い。リアルタイムで視聴している時、この物語の行き着く先を見届けるという決意を感じたものだった。

魔法戦争全話レビュー 第九話『崩壊への序曲』

第九話『崩壊への序曲』

脚本:石野敦夫 演出:八田洋介 絵コンテ:坂本一也 作画監督:王國年・高田晴仁・前田義宏

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(よく見るとそんなでもないかも)

 あの和室でついにラストレクイエムが目覚める。周囲にはトレイラーの幹部が正座して取り囲んでおり、おくりびとっぽい。時代が変わろうと、ウィザードブレスが生き残っているなら、やることは一つだ。第二次魔法大戦の火蓋が切られた。すばる魔法学院で大規模な戦闘が行われる。学院に潜伏していたエンシェント・ペンドラゴン(=トレイラー)の者達が一斉に蜂起したのだ。反乱軍にはあのすばる魔法学院写真部の姿もあった。マッシュルームカットの生徒が彼らにやられるのが悲しい。これも戦争が生んだ悲劇だ。

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 ちなみにすばる魔法学院写真部は地獄クラスにいるのが確認できる。エンシェント・ペンドラゴンの役に立てるのか不安である。彼らもまた人間。本当はくるみの写真を眺めて暮らしたかったに違いない。

 さて魔法学院の責任者である桃花の戦闘も見られる。無敵のスリーマンセルをドヤ顔で倒す桃花。しかし、ここでヴァイオレット先生が登場する。ワシズ様との戦いでは残念ながら、勝ったとは言えなかったは、今度はどうか……あっさりやられてしまう。名有りに勝てないパワーバランスが悲しい。一方武たちも戦乱に巻き込まれる。まずどさくさに紛れて二葉がウィザードブレスの特魔機関に拉致される。彼女の資質に目をつけたのだ。ラストレクイエムの悲劇が繰り返されるのか。ちなみに二葉はその後も一切出てこない。

 武は月光に襲われていた。武への恨みをむき出しにする月光。その能力、エンジェルハントは瞬間移動。事故で傷んだ足を補うかのような能力である。魔法戦争の“魔法”はその他の魔法アニメのそれよりも、超能力に近い。一人一能力で戦うバトルは、どちらかと言うとジョジョのスタンドバトルのようでもある。月光の能力は本人の願望の反映といえ、この点も超能力バトルのようである。能力から本人の性格やコンプレックスなどがにじみ出てくるのが趣深い。

 月光の魔法の練度は武より数段高く、ボロ負けする武。絶体絶命、月光によりトワイライトごと拉致されそうになるが、ここでくるみが駆けつけ、武にキスをする。くるみの魔法が成長し、武に身を変えたのだ。くるみは狼神に心揺れる時はあっても、ずっと武との恋愛のことしか考えてこなった。たとえ世界が争いに満ち崩壊していったとしても、くるみの心は変わらないのだ。この血で血を洗う陰惨な闘争の中で、くるみの愛が美しく胸を打つ。こうしてくるみはゴーストトレイラーの手に落ちる。武はくるみを取り戻し、月光との決着をつけることができるのだろうか。

魔法戦争全話レビュー 第八話『ウィザードブレスの闇』

第八話『ウィザードブレスの闇』

脚本:石野敦夫 演出:伊藤尚往 絵コンテ:伊藤尚往 作画監督:垪和等

 

 今まで魔法戦争はウィザードブレス側の視点で進んできた。しかし、第八話ではワシズ様の口を通して、ゴーストトレイラー側の視点が語られ、物語は混迷していく。作品世界の深まりという意味でも、この話は見逃せないのだ。

 時はバンバン進んで四月。入学式には魔法使いになった伊田の妹・二葉と月光の姿があった。二葉の運命もまた、兄妹喧嘩のすえに魔法を使われたことで大きく変わっていく。伊田は安易に魔法なんか使うべきではなかった。月光は武を仲直りするふりをして、みんなに近づいていく。風呂で背中を流したり、一緒に昼飯を食べたりして、つかの間の安息が訪れる。しかし、深夜、武が巨大な月光に責められる悪夢に目を覚ますと、ある来訪者があった。ワシズ様である。

 

 ここでワシズ様から、ウィザードブレス暗黒の歴史が語られる。8世紀末から魔法使いは魔法使いによって支配されていた。当時のウィザードブレスは歪んだ貴族主義的な思想に凝り固まり、自分たち以外の魔法使いを迫害していたのだ。魔法は一部の特権階級のみが使用を許されているとし、たくさんの魔法使いが殺されていった。魔法は若いころに発現させれば、誰にでも使用可能な能力であるにも関わらず、である。

 トレイラー側の視点がもたらされることにより、魔法戦争が歪んだ貴族主義的魔法アニメに対するカウンターだということが明確になる。魔法戦争は血統由来で魔法が発現するタイプの作品すべてへの強烈なメタなのだ。

 トレイラーの魔法至上主義が他のアニメの歪んだ貴族主義と一線を画するのは、その根本に魔法の開放という考え方があるからだ。魔法の資質が血統によって遺伝するタイプの設定ではこの味わいはない。むしろ誰にでも使える魔法を規制して、特権的な地位を築いているのは、ウィザードブレスサイドということになる。もちろんこの時点でのワシズ様の言にどれほどの信憑性があるかはわからないが、このアニメは一方的な戦争の大義を否定しているので、この時の彼の言葉にも一定の真実があると捉えたほうがよかろう。

 これは封印された歴史で、魔法史から排除されたものなのだ。また時代はくだり、ワシズ様の学生時代の話になる。ワシズ様とラストレクイエム、そして藤川月臣の三人は親友同士だった。そして、ラストレクイエムはその強力で特異な資質ゆえに、ウィザードブレスから勧誘を受けていた。

若き日のワシズ様「なんだよお前、ウィザードブレスに入らないのか?」

ラストレクイエム「嫌なんだよ。ヤツらが欲しがっているのは、戦争の道具としての僕だろ。嫌だよ。僕の魔法は僕のものだ。使い方は僕が決める」

 安易に大樹に依らないラストレクイエムの意志に、ワシズ様たちは何も言えなかった。魔法戦争の反戦要素がここにきてじわりと出てきた。しかし、ウィザードブレスの陰謀は、否応なしにラストレクイエムを取り囲んでいる。彼を懐柔できないと知ったウィザードブレスはあろうことか、両親を拉致監禁して脅しをしてきたのだ。怒りに我を忘れ、ウィザードブレスの人間に刃を向けるラストレクイエム。しかし、両親は開放されることなく殺されて、対ウィザードブレスの激しい戦争に身を投じることとなった。

 殺戮の道具として使われることを嫌ったラストレクイエムが、トレイラーのトップとして多くの命を奪う結果になったのは皮肉だ。また、ウィザードブレス側も強硬策に出すぎな気がする。ラストレクイエムの能力はあらゆる物体を消滅させること。敵に回したらこうもなろう。希少な能力ほしさに急いた方にも多くの問題はあるし、家族を拉致して脅迫するなどとは許されることではない。トレイラーのやってきた数々の殺人や洗脳が正当化されはしないが、ラストレクイエムらがウィザードブレスとの戦争を行う理由もわかる。魔法戦争は正義の戦争など存在しないというメッセージを放っている反戦作品なのだ。

 その戦争のさなか、藤川月臣は千木陽子をかばって命を落とした。ここではじめて武は母が魔法使いであったことを知る。

武「どうしてこんな話を俺に聞かせた!?」

ワシズ様「お前をゴーストトレイラーに勧誘しようと思ってな」

 武は当然この誘いには乗らないが、ウィザードブレスを信じることもできない。ワシズ様は月臣の形見であるトワイライトを返せと言っくるが、これにも応じるはずはない。

ワシズ様「あれも嫌これも嫌じゃあ道理が通らねえ」

 トレイラーかウィザードブレスがどちらか選べと言ってくるが、別に二者択一というわけではない。コミュニティはたくさんあるし、かつてラストレクイエムがそうしたように自分で勝手に結成することもできる。武自身がコミュニティを立ち上げればいいのだ。つまりたけし軍団である。ワシズ様は「ストライクビジョンが奴らの本質を暴く」と言い残して去っていく。武は一体、いかなる道を選択するのだろうか。

 そして、ゴーストトレイラー視点は最後まで貫かれる。超絶技巧特異魔法の発動により時間が凍ったラストレクイエムが封じられている場所に画面が写る。桜の枝に止まるメジロ、その声と心地よい春風を通す和室に、ラストレクイエムは寝かされていた。その横でうたた寝するワシズ様。これを見た時、ひっくり返るような衝撃を受けた。それっぽい城の最深部に封印されているものだと思っていたのだ。

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(美しき春の庭。メジロの鳴き声は和馬の耳に届くだろうか)

 考えても見れば当然である。城の最深部などより、風通しのよい和室の方がいいに決まっている。ワシズ様のラストレクイエムを思う気持ちが伝わってくる素晴らしいシーンだ。横でうたた寝しているのもまたいい。ずっとラストレクイエムに寄り添っていたのだろう。

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 (親友の傍らで眠るワシズ様。おそらく夜通し和馬を見守っていたのだろう)

 何も語らずとも、しみじみと人の思いが伝わってくる。魔法戦争最大の見どころと言ってもいい。キャラクターの心を視聴者に伝えるには、台詞よりもこうした鮮やかな演出が多くを語る場合があるということを思い知らされる。ちなみに、ゴーストトレイラーはきちんと巨大な城塞を本部として持っている。